|
|

「疲れ」と共に生きる―ポストポリオの疲れ
香川県 十川英治
Ⅰ.ポリオとの出会い
私は昭和33年に生まれ、1歳の時にポリオにかかりました。右足に麻痺が残りましたが、小学生のころには学校まで(2キロほど)歩けるまでになりました。
高校生のとき、体育の授業で右膝を痛めたのがきっかけで、「県立ひかり整肢学園」で手術を受けました。右下腿骨の骨切術と股関節筋移行術を行い、長下肢装具を使えるようになったことで、膝折れの心配もなくなり、長時間歩けるようになりました。
装具を付けた右足は、私にとって“新しい足”でした。痛みもなくなり、走ることやスポーツもできるようになりました。野球が好きで、友人たちと一緒にプレーできることが何よりうれしく、自分に自信を持てるようになりました。
それからの私は、就職、結婚と順調に歩み、長い間、自分が障害を持つことを忘れてしまうほど、元気に過ごしていました。
Ⅱ.突然訪れた「疲れ」
ところが、37歳のある日、仕事でイベント会場を一日中歩き回った翌朝、体がまったく動かなくなりました。
「疲れが取れない」――それが始まりでした。
一週間たっても、一か月たっても体調が戻らず、整体や針治療にも通いましたが、良くなりません。
私の仕事は立ち仕事で小売店での接客や、商品の配達業務で、休みは月に1日だけで、正月も2日から働いていました。
40歳を過ぎたころ、良い方の左足が突然動かなくなり、筋肉(良いほうの足の膝上、大腿四頭筋)がだんだん細くなっていきました。
午後になると体が「ガス欠」になったように動かず、気力や集中力がなくなり、頭が回らない、ろれつが回らない、人と話すのもつらくなりました。
46歳のとき、関西電力病院の神経内科(川西先生)を受診し、ポストポリオ症候群(PPS)と診断されました。
それまでの「なぜこんなに疲れるのか」という疑問に、やっと解答の言葉が与えられた瞬間でした。
Ⅲ.「疲れ」という目に見えない症状
ポストポリオの症状は人によってさまざまです。
筋力の低下、関節痛、筋肉のピクピクした動き(線維攣縮)、冷え、そして全身の倦怠感など。
その中でも私にとって一番つらいのは「疲れ」です。
この疲れは、いくら休んでも取れない、頭の中に霧がかかった感じで、おもだるい、強い痛みがあるわけではないが、とにかくだるい。体だけでなく、心のエネルギーまで奪われていくように感じます。
私が感じている主な症状
1. 手足の関節の鈍い痛み(軽い熱がある時のような感覚)
2. 午後から特に強くなる全身のだるさ
3. 同じ姿勢を保てない、持久力の低下
4. 集中力が続かない、夕方になるとぼんやりする
5. 記憶力や注意力が落ちる(短期の記憶が怪しい)
6. 単語が思い出せないことが多い
7. 無気力になり、一日中何もしたくない(症状がひどいとき)
8. 食事をとりすぎると関節が痛くなる
9. 痛みに敏感
このような疲れは、単に「筋肉が弱ったから」では説明できないように思います。
脳が疲労を強く感じる「中枢性疲労」など、神経の働きが関係しているのではないかと言われています。
2013年 「ポストポリオと生きる」 10ページ 「PPSについてのQ&A」
ポリオ友の会東海 向山昌邦先生の回答より引用
幼少時にポリオに罹ったときにポリオウイルスが脊髄や脳の運動神経細胞に侵入して、これらの神経細胞を壊したのですが、従来考えていたような脊髄の一部(ポリオ後遺症に対応する部位)の運動神経細胞だけでなく、もっと広範囲の脊髄・脳の神経細胞に侵入して、これまで異常がないと考えていた部位の運動神経細胞をはじめ、自律神経(手足の血液循環や温度調整をつかさどる)脳幹網様体(人の睡眠覚醒・作業の集中力をつかさどる)の神経細胞にも障害を及ぼしていた事が最近の研究で分かっています。従ってポリオ後遺症を持った手(上肢)・足(下肢)に限らず、健康と思っていた手足にも、色々な程度の障害を持っていた可能性があります。
アメリカのリチャード・L・ブルーノ博士の、興味深い言葉を見つけましたので引用させていただきます。ブルーノ博士はご自身がポリオ罹患者でPPSの研究にご尽力されました。
ポリオの後遺症を持つ人にとって、「何もしたくない」「動きたくない」といった受け身の状態は、不快で意味のないものに感じられます。
しかし、生き物として見た場合、特に「注意力」や「情報処理の速さ」が落ちていることを自覚していないときには、こうした状態にも実は生存上の重要な意味があります。
たとえば、注意力が低下しているにもかかわらず、環境をうろうろと探索し続ける動物は、目的(たとえば餌探し)に集中できず、限られたエネルギーをむだに使ってしまいます。
さらに危険なのは、注意力の低下によって、周囲の危険(たとえば獲物をねらう捕食者など)に気づけなくなることです。
そのため、脳には「注意力や情報処理の能力が落ちているとき」に、皮質の活動を監視し、動きを止めて休息を取らせる仕組みが備わっていると考えられます。
この仕組みは、結果的に生存に役立つものだといえるのです。
ポリオ後疲労の病態生理学:疲労の発生における基底核の役割
百科事典リチャードLBruno
2018年1月1日
リチャード・L・ブルーノ(HD、PhD)著
Ⅳ.いま伝えたいこと
ポストポリオの「疲れ」は、理解されにくく、周りから「気のせい」や「年のせい」と言われてしまうことがあります。
けれども当事者にとっては、日常生活のあらゆる瞬間に影響する、深刻な症状です。
ポリオを経験した世代は今、高齢化しています。
これから同じような症状に悩む人は、きっと増えていくでしょう。
だからこそ、医療や福祉の現場で、この「疲れ」にもっと目を向けてもらいたいと思います。
Ⅴ.おわりに
これまでの人生を振り返ると、いつも支えてくださる方々がそばにいてくださいました。
ひかり整肢学園での手術、長下肢装具との出会い、整形、神経内科の先生方、リハビリの専門家、装具士さんたち、そして今の相棒のカーボン長下肢装具と電動車椅子。
多くの人の助けで、私はここまで来ることができました。疲れは今も続いています。
でも、焦らず、比べず、自分のペースで生きることが大切だと思っています。
ポストポリオの「疲れ」を少しでも理解してもらえるように――そして同じ症状で悩む方が、少しでも安心して生きられるように――このレポートを書きました。
身体を休めることは、後ろめたいことではありません。今まで無理を重ねていた手足は出来るだけ温存できるように、杖や、補装具、電動車いす、楽になるものは何でも使い、省エネルギー生活を心がけ、心穏やかに暮らしたいものです。
|
|